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Ohne dich kann ich nicht leben.

きみがいないと生きていけない

Neon Sign

東京に行きたいわたしと、そうでもない臨也くんの話

東の方を眺めて、わたしは呆然と立ち続けていた。
東の方。東京という街。
臨也くんの生まれ育って、離れた街。
もしかしたら彼は東京へ戻ってしまうのではないか、わたしは置いていかれるのではないか……そんな不安が胸を過る。

臨也くんのためならなんでもできる。
わたしのこの言葉に嘘偽りはない。
臨也くんが東京に戻りたいのならば、わたしはいつだってそうしようと思えるくらいに、わたしは臨也くんに依存している。
置いていかれたくなんてない。
わたしの夢が叶うまで待ってほしい。それがいつになるかはわからないけれど。それでも。

立ち尽くしているわたしに、お風呂から上がってきた臨也くんが気がついた。
「どうしたんだい? そんなところで立ち尽くして」
「臨也くんに置いていかれたくないなって思ってたの」
「俺が置いていく? サコちゃんを?」
臨也くんはまだ濡れた髪をタオルでわしわしぬぐいながら、わたしの隣に立った。
「やっぱり東京が恋しい?」
「たまに恋しく思うけど、戻りたいと思うほどでもないさ。あの街には今の俺にとって危険が多すぎるからね」
感傷に浸りながら臨也くんが言った。
「俺が東京へ発って、置いていかれるかもしれないとか思ってた?」
わたしの顔を覗き込みながら臨也くんが言った。
「思ってた。わたしの夢が叶う前に、どこか遠くへ臨也くんが言ってしまうかもしれないって……」
「行かないよ。サコちゃんをおいて、どこかへなんて行かない。行くときは、必ずサコちゃんも一緒だよ」
臨也くんそう言うとわたしの手を握った。
「俺たち、共依存してるみたいだね」
共依存?」
「互いが互いの存在なしには生きていけないんだ」
「でもきっと、臨也くんはすぐにわたしの代わりを見つけるでしょ」
「そんなことないよ。サコちゃんは、驚くことに、俺の大事なお友達で同居人なんだ。代わりなんてそうそう現れそうにないよ。俺に友達が少ないのは知ってるだろう?」
臨也くんが手を握ったまま言う。その温もりに、東京へ急いで行かなければという気持ちが失せていく。
「名古屋もおもしろい街だよ。人はいっぱいいるからね。全国津々浦々、俺は人がいるところならどこでもいいんだ。ただ、サコちゃんという俺のサポーターがいてくれれば、きっともっと人間観察が楽しくなるかもね」
わたしの不安を掻き消すように臨也くんは言った。
「焦らなくていいし、東京へ行く必要もない。俺とサコちゃんが今いるここで、それぞれの思惑どおりに動けばいいだけの話さ」
「ありがとう」
わたしは涙を一筋流した。それを臨也くんは、まだ少し湿った指で掬った。
「作家、なれるといいね。俺は何もできないけど、応援してるから」
わたしは臨也くんの言葉に、涙を流すばかりだった。東の方面が、わたしの涙によって滲んでいく。

わたし達はここで生きていく。
わたしの夢が叶うまで。臨也くんが望むまで。
わたし達はここで生きていく。
いつか、機に恵まれるまで。