Ohne dich kann ich nicht leben.

きみがいないと生きていけない

ミラージュソング

おいしいものを食べに行った時の話

 今日は天気がいいから外へ行こう。そう行ったのは臨也くんだった。
 化粧をして、身なりを整える。臨也くんとご飯。わたしは舞い上がる気分を抑え込むのに必死だった。今までは、家の中で二人ぼんやりとご飯を食べるだけだった。外でご飯を食べるなんていつぶりだろうか。兎にも角にも、急がねば。臨也くんが待っている。
 臨也くんは玄関で靴を履いて待っていた。 「ごめんね、待たせた?」
「いや、いいよ、ゆっくりで」
 そう言うと、臨也くんが扉を開ける。しっかりと施錠したのを確認して、わたしたちは名古屋の街へ出た。
 休日の名古屋駅の金時計は相変わらず混み合っていた。待ち合わせをしている人たちでいっぱいだった。彼らの視線がわたしに突き刺さる。あんなイケメンを連れたブス、何事だろう、どうせそんなことを思っているのだ。わたしは恥ずかしくなって下を向いた。
「そんなに見た目を気にしなくていいんだよ」
 下を向いたわたしの手を握って、臨也くんが言った。
「せっかくのデートなんだから、顔を上げて。楽しまないともったいないだろう?」
 そう言った臨也くんの顔を見ると、彼は柔和な微笑みを浮かべていた。
 まだ名古屋の街に詳しくない臨也くんを、わたしは喫茶店へ案内した。おいしいものが食べたい。そんな臨也くんのリクエスト通り、おいしいパンケーキが食べられる店だ。
「混雑してるね」
 臨也くんが言う。平日でも混み合っているのだ、休日はなおさらだった。この店の喫煙席へ案内してもらうと、臨也くんはメニューを片手に水を飲んでいる。
「サコちゃんのオススメはどれ?」
 臨也くんが微笑みながら聞いた。
「わたしはバニラのスフレが好きだよ」
 わたしはそう答える。
「じゃあそれにしようかな」
 臨也くんはお茶目に笑うと、呼び出しスイッチを押した。
「バニラのスフレを二つ、お願いします」
 臨也くんのあまりの美貌に、店員が狼狽えている様子がよくわかった。臨也くんはそれを気にする様子もなく、じゃあお願いしますと言って、わたしの方に向き直った。
「今サコちゃんが考えてること当ててあげようか」
臨也くんが唐突に言う。
「『わたしみたいなブスが臨也くんとデートなんておこがましいんじゃないか』……どう? 当たり?」
 図星だった。わたしは何も言えずに、こくんと頷くことしかできなかった。
「そんな風に思う必要はないさ。俺たちは運命共同体だろう? 家族みたいなものなんだからさ」
 臨也くんの言葉に、わたしは顔を上げる。
「わたしのこと、そんな風に思ってくれてるの?」
「当然じゃないか。そうじゃなかったら君みたいなメンヘラ、すぐに突き放してるよ」
 けらけらと臨也くんが笑った。その言葉が嬉しくて、わたしは思わず笑った。
「やっと笑ってくれたね」
 臨也くんに言われて、ハッとした。
「ずっと周りを気にして仏頂面だったからさ。周りの人なんてどうでもいいんだよ。どう言われたってもいい。自分は自分、そうだろ?」
 運ばれてきたバニラのスフレを美味しそうに食べる臨也くんに、わたしはほっとした。お気に召したようで、また今度ここに来ようね、と言った臨也くんにわたしは頷いた。
「容姿なんか関係ないさ。俺はサコちゃんがいてくれればそれだけで十分だよ。俺たちは持ちつ持たれつ、互いに互いを支え合ってるんだから。……こういうのを共依存って言うのかもね」
 臨也くんがコーヒーを啜りながら言った。わたしも、紅茶を飲みながら臨也くんの話を聞いていた。
「二人で、いろんなところへ行こう。東京でも大阪でも、どこでもいい。俺たち二人でならどこへでもいけるよ」
 だから作家になる夢、叶えようね。臨也くんにそう言われて、わたしはこくこくと頷いた。狭き門だけれども、諦めないぞという気持ちが湧いてきた。
「臨也くんはすごいね。臨也くんの言葉でわたし、元気になれる」
「俺はサコちゃんを元気にさせるためにいるんだから当たり前じゃないか」
 そう言った臨也くんに、わたしは笑ってみせた。臨也くんもわたしの顔を見て、綺麗な笑みを浮かべた。
「たまには外もいいかもね」
 臨也くんがそういうのを、わたしはタバコを吸いながら聞いていた。また臨也くんとここへ来よう。わたしは心に決めて、紅茶を啜った。